日本臨床睡眠医学会
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第2回 ISMSJ学術集会

2010 年 10 月 4 日

「第2回 ISMSJ学術集会」レポート

 9月に入ってその年の最高気温が次々と更新されていく中、東京の学術総合センターで第2回ISMSJ学術集会が開催されました。
 1日目最初のプログラムはアメリカ・ロードアイランド州にあるBrown大学の教授である、Mary.Carscadon先生を囲んでのMeet the Professor。小さな会議室で約20名の参加者の日本語での自己紹介 (Carscadon先生への通訳は河合先生が、一緒に参加されていたSharon Keenan先生への通訳は大倉先生が担当) から始まりました。皆さんのハニカミがなかなか取れず、少し硬い雰囲気のなか会は進んでゆきましたが、そんな中をとても穏やかな印象でCarskadon先生は淡々とご自身の経歴を話してくださいました。アメリカで睡眠研究の基礎を築かれたDement先生の下で勉強をし、共にMSLT (Multiple Sleep Latency Test) を開発されたこと、思春期の子供の睡眠覚醒リズムに関する研究をされていること、現在大学でどのような教育をされているか等アメリカで睡眠医学が成長し始めた時から歩んでこられた先生の歴史の目次だけなのかもしれませんが、触れることができたと思っています。

 その後、会場を移動して、カナダ・ケベックシティーにあるLaval大学の教授であるCharles Morin先生によるサテライトイブニングセミナーが行われました。「不眠治療に睡眠薬とCBT (Cognitive Behavioral Therapy) をどのように組み合わせて行うか、またすでに睡眠薬を投与されている不眠症の患者でどのようにCBTを利用して睡眠薬を止めていくか」がメインのテーマでしたが、その導入として不眠に対する治療の種類、なぜCBTを行うのか、CBTはどのように行っていくのか、という基礎的なところから述べられました。そのため、今まで私の頭のなかでバラバラだった「CBT」に関するパズルのいくつかのピースが「ピシッ」とはまった気がして、とても興味深い講演でした。

 学術集会のメインプログラムといえる2日目は朝10時から始まりました。 最初のシンポジウムは「Sleep is the window for the brain stem function」というメインタイトルのもと、二人の先生の講演を聴きました。
 一人目は瀬川小児神経学クリニックの瀬川先生のお話で、小児の睡眠覚醒リズムの発達と様々な疾患、さらにはニューロトランスミッターとの関係を、生理学側面、さらに臨床症状と連なる形で話されました。睡眠研究の切り口としてこのような形もあるということを知ることは、深い理解が得られなくとも、新鮮であり、睡眠医学の深さを知り、まだまだ様々な課題、アプローチがあることを知る良い機会でした。
 二人目の旭川医科大学の高草木先生からは、覚醒時とレム睡眠期はどちらも脳が活発に働いているがそれぞれ働いている場所が違うということや、睡眠中の筋緊張と大脳新皮質の活動との関わりによってどういった睡眠関連疾患が発現しうるのか、脳のどの部分が睡眠中の眼球運動や身体の運動に関わっているか等の話がありました。睡眠技士として睡眠を観察することを通じて様々な疾患を考えるという関わり方をしてきた私にとって、また違った視点からの睡眠へのアプローチを知ることができました。まだまだ私の知らない事がたくさんあるのだと改めて思いました。

 この後は続けてランチョンセミナーへ。講演会場が飲食禁止のため、講演の終了後に別の場所で食事ができる「食事券」が配布されるという少し変則的なランチョンセミナーでした。
 ランチョンセミナーは国立精神・神経医療研究センターの三島先生による「不眠症を概日リズムから考える」というテーマの講演でした。同じ不眠症の治療に関する内容でも1日目のMorin先生のCBTとは違い、規則正しい睡眠覚醒リズムをどのようにして保つかという観点から不眠の治療への関わりを論じられました。人間の身体の中で「眠りたい」という信号の強さと「目覚めたい」という信号の強さのバランスが上手くいくと規則正しい睡眠覚醒リズムを得ることができる、そのバランスを保つために日中に太陽の光を浴びて身体や脳に「今は覚醒する時だ!」ということを認識させ、昼と夜のメリハリをつけることが大切です。同じ不眠を訴える患者さんであっても、症状や性格等によっていろいろな治療方法から適切なものを選んだり、組み合わせたりしていくことが重要だと感じました。

 午後最初のプログラムは、今回の組織委員長である神山先生による講演。「医食同源」ならぬ「医眠同源」という神山先生が考えられた言葉を軸に話が進んでいきました。問題になっている子供の夜更かしも、元をたどれば大人の生活様式の乱れが子供を巻き込んでしまっていること、大人の睡眠衛生の乱れは、本人の健康ばかりではなく社会にも大きな損失を与えていること等をデータを上げて呈示されました。つまり、食べることと同じように十分な睡眠を取ることがまずは自分の、そして社会の、そしてそれが家族の健康へと繋がっていく・・・単純なことなのに何故か簡単には実行できない。奥の深い難しい問題だと思いました。
 この日最後の講演は、Mary Carscadon先生による特別講演。お昼休み以外びっちりと講演が続き、その最後に「英語」での講演。集中力の衰えが・・・と思いつつの聴講でした。内容は、Carscadon先生がずっと専門に研究してこられた思春期の子どもたちの「眠り」に焦点が当てられていました。この世代は、生物学的に発達するのみならず、徐々に大人の社会に関わっていくことで身体や心の発達に様々な要因が関わり、睡眠もそれに引きずられて変化していく。その変化といかにうまく付き合っていくか・・・私自身がこの世代のときにこういった変化をクリアできたのかどうか意識したことはありませんでしたが、実は自分の知らないところで、身体も心も頑張ってきていたのだといまさらながらに思いました。

 椅子に座る長い時間が終了し、次はいよいよポスターセッションへ。今回はポスター見学の時間が長めに確保してあり、コーヒーを飲んで頭を切り替える時間も少しは取れました。ポスターセッションそのものはグループによって熱の上がり具合が違ったようですが、みなさんどうでしたでしょうか?(私は自分の発表で周りを見渡す余裕なしでした・・・)

 ここで2日目のプログラムは終了。その後は懇親会へ。ここで小さな事件がおこりました。今回同時開催であった「早起き会」のプログラムとの時間調整のため、ISMSJのポスターセッション後少し待ち時間ができました。そこでMorin先生とKeenan先生が「待っていると眠くなるから、会場近辺を散歩してくる」と言い残し2人で出かけていかれました。そこまではよかったのですが、なんと懇親会の時間になっても二人が戻ってこない!!9月になって気温はまだ高いとはいえ、日が落ちるのは段々と早くなってきていて、19:00ともなれば周りの様子がわかりにくいほどの暗さになっていました。懇親会の時間を少し遅らせてスタッフの先生方が手分けして捜索に。これ以上時間は遅らせられないということで、おふたり抜きで会は開始となりました。結局、会が始まってから15分ほどたった頃、やっと戻ってこられました・・・が、「ん?ん?2人の顔が赤い!?」なんと、初来日にもかかわらず、散歩と称しながら会場近くのお店で「プレ懇親会」を2人で開催され、ほろ酔いで戻ってこられたのです。この時のスタッフの先生方の脱力感は手にとるようにわかりました。しかし、怪我の功名というか、このハプニングのおかげで最初からくだけた感じの会となり、とても和やかなまま進行しました。中締めの時に初来日の3人の先生に「ISMSJ特製ハッピ」と三上先生お手製の「国境なき睡眠団ウチワ」の贈呈式がありました。この贈り物には、3人の先生方をはじめ会場の皆さんも楽しんでくださったのではないかと思っています。懇親会参加者全員での写真撮影では、Carscadon先生の提案で全員が「目をつぶった状態」での写真も撮りました。

 最終日のサテライトセミナーは, 当初参加者とSharon Keenan先生がdiscussionをしながら進めていく予定でしたが、ご自身の経歴や睡眠医学とのかかわりを話される時間が予想外に長くなり、思っていたものとは違ったものになりました。
 先生が睡眠にかかわり出してから、自身の地位や後から続いてくる人たちの地位の確立のために行動を起こし、そのたびにふりかかってくる困難(仕事の環境の問題や金銭的な問題等)に対して強い意志と姿勢で向かっていかれた話を聞いていると、一見とてもそのような強さを持っているような人には見えないのに、この人を支えているものは何なんだろう?という疑問がわき出てきました。そして、その答は、話の最後の方で「I love sleep」と胸を張って言われたその一言に集約されていました。この思いは、今回ゲストとしてきてくださった、Mary.Carscadon先生、Charles Morin先生にも共通するものなのだと思います。そしてISMSJも同じ思いを共有する人たちの集まりであるということを理解してくださったからこそ、貴重な時間をこの小さな学術集会へとつぎ込んでくださったのだと思いました。

 ISMSJの学術集会では、スタッフの先生方が比較的皆さんの近い場所で仕事をされています。せっかくなので先生方の隙をみて声をかけてみられてはどうでしょうか? いきなり声をかけるのがちょっと・・・と思われたら比較的声をかけやすい技師のスタッフをまずつかまえてみて下さい。出来る限り仲介役を務めます。小さい学会だからこそ、可能なことがあります。様々な分野で睡眠に関わっている人たちと直接交流を持てる機会を是非もつようにして下さい。

 来年の学術集会は8月に神戸で開催されます。AASMのNew scoring manualに関して、その成立のいきさつや問題点について、きっちりとした説明ができる方をゲストにお招きする予定になっているようです。まだ10ヶ月あります。皆さん今のうちに質問のご準備を!!

(大阪回生病院 睡眠医療センター 村木久恵・大倉睦美 記)
9月3日(金) プログラム
17:20~18:20  Meet the Professor
 Prof. Mary A. Carskadon (Brown University, USA)
18:30~20:00  サテライトイブニングセミナー
 (共催:サノフィ・アベンティス)
 (当セミナーに限定しての参加も可能です。
 参加費は会員・非会員とも1000円。)
 【座長】昭和大学 神経内科 河村満
 “How to successfully combine CBT with medication
 and how and when to discontinue medication in
 the management of chronic insomnia”
 Prof Charles Morin (École de Psychologie,
 Université Laval, Canada)
9月4日(土) プログラム
10:00~11:30  シンポジウム*
 – Sleep is the window for the brain stem function –
 【座長】東京都老人総合研究所 高齢者ブレインバンク研究部 村山繁雄
 【シンポジスト】瀬川昌也(瀬川小児神経学クリニック),
 高草木薫(旭川医科大学・生理学講座)
11:30~12:30  ランチョンセミナー (共催:武田薬品)
 【座長】秋田大学・精神科学 清水徹男
 「睡眠障害と生物時計との関わり -不眠症を概日リズムの視点
  から診る-」
 国立精神・神経医療研究センター 三島和夫
13:00~13:30  総会
13:30~14:00  会長講演*
 【座長】瀬川小児神経学クリニック 瀬川昌也
 「医眠同源-睡眠の発達から学んだ原則」
 神山潤(東京ベイ・浦安市川医療センター)
14:00~15:00  特別講演*
 【座長】東京ベイ・浦安市川医療センター 神山潤
 「Healthy Sleep and Healthy Development」
 Prof. Mary A. Carskadon (Brown University, USA)
16:00~18:00  ポスターセッション
 ≫≫≫ポスターセッションのプログラムはこちら
19:00~21:00  懇親会(如水会館)
9月5日(日) プログラム
9:30~12:00  専門職向けサテライトセミナー*
 「睡眠技士を育てるために
 -睡眠医学の基本技法の教育方法を知ろう-」

 (共催:フィリップス・レスピロニクス)
 【Coordinator】関西電力病院・睡眠関連疾患センター
       立花直子

 Dr Sharon Keenan
 (The School of Sleep Medicine, Inc., USA)

組織委員長
東京ベイ・浦安市川医療センター センター長 神山 潤
組織委員(50音順)
のるぷろ ライトシステムズ 大木 昇
太田総合病院 太田睡眠科学センター 加藤 久美
大阪大学大学院歯学研究科 統合機能口腔科学 講師 加藤 隆史
ヒューストン メソジスト病院 神経内科神経生理部門 河合 真
石金病院 副院長 香坂 雅子
都立松沢病院 小林 真実
筑波大学大学院人間総合科学研究科
睡眠学寄附講座 教授
佐藤 誠
和洋女子大学人文学部発達科学科 教授 鈴木 みゆき
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所 上席研究員 高橋 正也
関西電力病院 睡眠関連疾患センター センター長 立花 直子
大阪回生病院 睡眠医療センター 部長 谷口 充孝
南和歌山医療センター 小児科 星野 恭子
金沢医科大学 医学教育学 准教授 堀 有行
ハムリー株式会社 筑波研究センター
睡眠科学研究所 所長
本多 和樹
大阪大学 保健センター 准教授 三上 章良
大阪回生病院 睡眠医療センター 村木 久恵
東京都老人総合研究所 高齢者ブレインバンク 
研究部長
村山 繁雄