日本臨床睡眠医学会
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第1回 ISMSJ学術集会を終えて

2009 年 10 月 19 日

 ISMSJは小さな学会です。しかも、昨年12月31日までに会員申し込みをされた方については、2008年度の年会費を無料にするという措置をとったこともあり、初年度の収入は少なく、とても貧乏です。私は、1年間、この小さく貧乏な学会のお財布係を担当したわけですが、お金の収支に関わってみると、今まで、自分たちが知らなかったことばかりに出会いました。第1回ISMSJ学術集会の舞台裏として、お金をどのように集め、使ったのか、そのあらましを会員の皆様にご報告したいと思います。

 一般的には、学術集会の収入は、①参加費 ②企業からの寄付や広告 ③本会からの援助金からなりますが、ISMS本会にはお金がありませんので、③は最初から期待できませんでした。①の参加費に関しては、認定制度のある学会では、少々参加費が高くても、認定制度のポイント獲得のための参加者が見込めるのでしょうが、ISMSJ学術集会には認定制度はなく、こうした参加者は見込めません。参加費に十分見合うだけのプログラムを皆で考え、その過程で相当な準備をしました。参加された多くの皆さまから、「丸一日睡眠をこれだけ勉強した学術集会は初めてです。」といった感想をいただき、ほっとしています。

 しかし、他の学会でも事情は同じかと思いますが、見込める参加費収入だけではISMSJ学術集会の開催費用は到底賄えず、企業からの寄付がなくては運営できない状況でした。したがって、今回のISMSJ学術集会ではこれまでのSleep Symposium in Kansai(SSK)では開催したことのなかったランチョンセミナーを初めて行いました。一つには、盛りだくさんのプログラムを用意したので、昼食時間がとれないという理由からなのですが、今回、イスラエルから学術集会の特別講演者として招聘したPeretz Lavie先生より、「妻もいっしょに招聘してもらえれば、基礎研究の話もいっしょにすることができる」というお申し出があったものの、お二人に対しての費用が学会からは工面できないという事情がありました。
 
 細かな話ですが、製薬企業の公正取引委員会では、学術集会の予算の50%未満に企業からの寄付収入を抑えるよう求めています。しかし、ランチョンセミナーの時間枠は学術集会の枠外のプログラムなので、この規定に抵触せず、ランチョンセミナーのLena Lavie先生の招聘費だけでなく、ランチョンセミナーの開催費用を学術集会に支払ってくれます。製薬メーカーからの開催費用はかなり高額で、財政運営上は非常に魅力的です。最近、ほとんどの学術集会がランチョンセミナーやイブニングセミナーを開催しますが、高騰する学会費用を捻出するためには、公式の学会プログラム以外のランチョンセミナーやイブニングセミナーの開催無しでは、財政的に運営できなくなっているという裏事情があるからです。ただし、公式外のプログラムが増えるのは学術集会としての魅力を損ないかねません。また、学会として人選するだけで海外講師の招聘を製薬メーカーに依頼する場合も多いようです。この方が学会としての事務仕事は、はるかに楽になります。 しかし、招聘を企業にお願いすれば、学会にスピーカーとして呼ばれたというより、製薬メーカーの人に頼まれ講演をしにきたという意識になるでしょう。皆様も経験されたことがあると思いますが、ランチョンセミナーやイブニングセミナー絡みで来た海外講師の話を聞くとがっかりすることが多いのは、こうした企業の丸かかえによる招聘による弊害であり、これでは学術集会は企業主催のセミナーと変わらなくなります。

 ISMSJは貧乏ですが、特別講演のPeretz Lavie先生については、第1回ISMS学術集会を主催した組織委員長の立花直子先生の強い意向で、あえて私たちの学会で招聘費用を全て負担しました。お財布係の私にとっては泣かされましたが、これは必要な決断です。このため、できる限りの節約をしました。会場費用を抑えるため、30分単位で必要最小限の会場を借りましたし、皆様に送付した封書などもラベル印刷のみを事務局にお願いし、私自身で封筒づめをしていました。途中で、見かねた回生病院のスタッフも手伝ってくれました。いつもですが、スタッフのみんなには感謝しています。

 学会の独立性と企業からの寄付の問題は、研究者のconflict of interestとも重なる難しい問題です。今回の学術集会では、われわれの理念を理解して下さった上で、ランチョンセミナーやCEC course for RPSGTを引き受けてくださったスポンサーがあったわけですが、よりビジネスに直結を求められる趨勢からは、今後は厳しくなってくるのかもしれません。
 
 昨年から、米国の学会では、企業の寄付は、製薬メーカーや学会自体でも自主規制されるようになり、こうした食事つきのセミナーを一切禁止する学会も出ています。ISMSJ学術集会は、今後もランチョンセミナーやイブニングセミナーを開催する予定ですが、企業に一切を任せるようなセミナーは行いません。来年以降も、学会の貧乏は続くでしょうが、金持ちになるよりも、矜持の方がはるかに大切です。そして、そういった意図を理解して日本に睡眠医学を根付かせ、若い人々と直接交流することに意義を感じて下さる海外の方々を選んで招聘していくつもりです。
 
 最後に、お願いです。これまでに2009年度の年会費を払っていただいた方々は、正直、こちらが驚くほど早くに行っていただいており、感謝しています。しかし、未納入の会員もおられるため、それらの方々は、納入をお願いします。

          

大阪回生病院 睡眠医療センター 谷口充孝 記