特別講演:The AASM sleep scoring manual four years later
2011 年 9 月 26 日
第3回ISMSJ学術集会の2日目の午後、ニューメキシコ大学のMadeleine Grigg-Damberger教授によるAASMスコアリングマニュアルに関する特別講演がありました。PSGの記録やスコアに関して包括的にまとめられたAASMスコアリングマニュアルは2007年に出版され4年が経ちます。このマニュアルに対する評価や批判は既にいくつかの論文として公表されています。講演では、このマニュアルを作成しようとした目的や背景の説明を含め、このマニュアルの影響と効果を評価した文献のレビューが行われました。
講演のはじめに、このマニュアルの作成された背景について説明がありました。このマニュアルは、米国における標準的なPSGの記録、解析、報告の方法を定めようとする最初の勇敢な試みであったということです。マニュアル作成にあたっては、目標や留意するテーマなどがしっかりデザインされています。しかしながら、米国の保険制度などの政治的な影響も盛り込まれていて、その結果、成人の低呼吸のスコアリングルールには2つのルールが存在する形になってしまったということです。
この低呼吸のルールの影響は大きく、どちらの基準を使用してスコアするかによってAHI(無呼吸低呼吸指数)に大きな差が生じます。講演では2つの文献がレビューされました。その一つは、「痩せた自覚症状のある成人患者において低呼吸を推奨基準でスコアするとOSA患者の多数が軽症 (5 < AHI < 15)と分類され、40%の患者が正常(AHI < 5)と誤って解釈される。痩せた患者においては代替基準でスコアするべきである。」というものでした。Madeleine Grigg-Damberger教授も成人の低呼吸のルールは一つにし、データ蓄積のある代替基準が適当であろうと言及されていました。
今回の講演で、AASMスコアリングマニュアルとは、米国の保険制度や米国の事情の影響を受けていて、AASMのために作られたものであると再認識しました。そして、ルールやマニュアルに対する考え方が日本人とは明らかに違うと実感しました。ルールやマニュアルというものは、自分たちで造り上げていくものであって、お上から完璧なものが与えられるものではありません。そして、不完全でもいいからマニュアルとして形式化し不都合が生じれば改訂していく、そのように考えるべきだと感じました。AASMスコアリングマニュアルの改訂作業は既に始まっているということです。ルールあるいはマニュアルにないことや解釈できないことは、ケースバイケースで、自分たちで自信を持って決めれば良いと思うようになりました。
もともと日本人は技術的なことを人へ伝えていくときにマニュアルなどを使わず実技で教えていくことが多く、場合によっては、「技は盗みとれ」というように、マニュアルなどは決してつくらない傾向があったように思います。ルールなども「暗黙のルール」というようなきっちりとした形にはなっていないが、しっかりとルールは存在するというようなことが多くあります。最近では、海外のマニュアル文化が浸透してきて、そのような傾向も大きく変わってきているとは思いますが、マニュアルなどの形式化されたものにはまだまだ不慣れなようです。形式化されたものがあるとその通りに完璧に従わなくてはならないと思い込みます。そして、マニュアル通りにいかないことが起こるとそこで止まってしまい、先へ進めなくなってしまうことが多々あります。マニュアルなど形式化されていないときには自分で応用を利かして先へ進めていくことができていたはずです。
そのためか日本人がルールやマニュアルを作るとなると完璧なものが要求されます。そして、ルールやマニュアルは完璧なモノだと思い込んでしまっている人も多いです。ルールやマニュアルは誰かから与えられるものと勘違いしている人も多いでしょう。初めから完璧なものは簡単には作れません。だから、安易にどこからか既にあるものを持ってくることになります。自分たちのものでなく他から持ってきたものであるにもかかわらず完璧に従おうとします。そして、立ち止まってしまい、誰かに頼ってしまうというのが、私も含め、日本人の特徴であり、特長ではないでしょうか。
前述の低呼吸のルールのところでレビューした文献の「痩せた成人患者」ですが、文献では平均のBMIが24.4となっています。日本人にとってはけっして「痩せた」とは言えない数値です。AASMスコアリングマニュアルは米国のマニュアルです。このマニュアルの良いところは利用し、日本には日本にあったマニュアルを造っていく勇敢な試みが必要であると強く感じました。
(大阪大学医学部附属病院 睡眠医療センター 野々上 茂記)
8月27日(土) プログラム | ||
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15:40~17:00 特別講演★ |
The AASM sleep scoring manual four years later 【座長】堀有行 University of New Mexico:Prof. Madeleine Grigg-Damberger ≫≫抄録はこちらから |