「第6回ISMSJ学術集会」レポート
2014 年 8 月 25 日
「これからの睡眠」を社会と個人の視点から問うというテーマのもと、本年8月1日から3日まで神戸ファッションマートで開催した第6回ISMSJ学術集会は,のべ198名の参加者とともに盛会のうちに終わりました。前回の第5回が終わった当日から、まさに丸1年かけて手作り(手探り)で準備を進めてきました。組織委員長という任務は今回が初めてで、無事に開催できるかと不安になった時もありましたが、ISMSJのメンバーと事務局がしっかりと支えてくれました。なにより、ご多忙にもかかわらず、本会にご参加いただいた皆さま、ならびに関係者の方々には本当に感謝いたします。どうもありがとうございました。
開会のあいさつでは、参加者に学術集会の心得のようなものをお伝えしました。他職種と知り合いになり、質疑では積極的に質問を行い、PSGへの理解をできるだけ深めるというのが主旨です。果たしてどのくらい通じるだろうかと心配もありましたが、全く無用でした。特に、質疑ではマイクの前に多数の方が並ぶという、日本の学会ではほとんどみられない光景が普通にみられました。
初日の最初は教育プログラム1:「眠れない」の基礎から始まりました。演者の河合真先生は睡眠・覚醒システムには体内時計や先行覚醒時間などいくつもの要素が関わっていて、そのシステムの故障として不眠を捉えることの大切さを強調しました。次の演者である立花直子先生は「眠れない」という訴えに対する無批判の即時的な薬物処方(「そうですか。では、お薬を出しておきますからね。はい、次の患者さん。」という、ありがちなパターン)など、現状の診療の問題点を整理した上で、問診を通じた治療の意義、スリープ・ログによる睡眠の”見える化”の重要性を説きました。
ランチョンセミナーは、本多真先生によるナルコレプシーの症状と病態、池田学先生による認知症に関わる睡眠の問題がありました。両方に顔を出しつつも、池田先生のお話を聞くことが多くなりましたが、適切に準備すれば、認知症の高齢者に多数処方されている向精神薬を止められるという事例をみて驚きました。また、熊本県認知症疾患医療センターでは、治療のみならず、若手の医師をトレーニングし、専門医に育てる試みもされているとのことで、睡眠専門医の育成の一つもモデルのように感じました。
午後の教育プログラム2では、メディカル・インサイト代表取締役である鈴木英介先生が医療用医薬品のマーケティングのイロハを実にわかりやすく解説されました。製薬会社は市民、患者、医師のどこをどのように攻めればよいかのツボを心得ているので、それを理解することはいずれの立場でも「納得の医療」につながる第一歩になるというお話は多くの参加者に響きました。
最後のワークショップはISMSJ的であったと言えます。まず、清水孝一先生が総合診療科でのご経験を通じて、目の前にいる患者さんに「睡眠の問題がなにかあるのでは?」という視点が欠かせないことを強調しました。睡眠の問題の多くは画像検査などでは明らかにならないことが睡眠医療の弱点でもあり、利点でもあります。この利点をいかに多くするかが専門医としての腕の見せ所になります。
清水先生のお話に続いて,症例検討組と脳波計組とに分かれました。私は双方を行ったり来たりしましたが,どちらも熱気と向学心に圧倒されました。谷口浩一郎先生による症例検討では,いろいろなコメントが次から次へと出され,ホワイトボードに書き切れないほどでした。
脳波計があれば睡眠がわかると題したセッションでは、今は珍しいペン書き脳波計をあえて持ち込み、電極装着からキャリブレーション、MSLTまで、川名ふさ江先生を中心に、小林真実先生、丸本圭一先生、中内緑先生、千崎香先生など多くの技師さんが協力して進められました。模範を示す技師さんの動きを一つももらさないよう、参加者の目が大きく見開いていました。
初日の晩は例年、海外ゲストとのディナーとなります。今回は米国国家運輸安全委員会のボードメンバーであるマーク・ローズカインド先生をお招きしました。睡眠の専門家が国家の運輸安全のトップであるというのは、同じく睡眠を志す者として、どこか嬉しく、また誇らしくも感じます。超VIPであるローズカインド先生を招へいできたのは、第2回学術集会でメアリー・カースケイドン先生とシャロン・キーナン先生を招待していたからです。両先生とスタンフォードで強いつながりのあるローズカインド先生がISMSJを信頼してくださったからこそ、訪日につながりました。こうしてネットワークができていくのかと実感しました。
二日目は、ポスターのエッセンスを1枚のスライドで説明するトーキング・ポスターから始まりました。津田緩子先生と小栗卓也先生が仕切ってくださり、後半ではホン・スンチョル先生が韓国で来年開かれるWASM2015について、ビデオを交えて説明しました。
ランチョンセミナーは、大石勝隆先生による食と体内時計、岡村城志先生による睡眠時呼吸障害に対する陽圧呼吸療法の理論と実際がありました。一般生活面、臨床面のどちらも身近な話題であり、演者の先生方の示すより新しい情報に参加者の満足度は高いものがありました。
午後からは組織委員長講演、特別講演と続くので、私の組織委員長講演は短く切り上げるよう、努力しました。参加者は,良好な睡眠に得るには個人の努力もさることながら、職場、地域、家庭、学校などの組織の努力も必要という私の言いたいことをよく理解してくださり,とてもありがたかったです。
安全、健康、パフォーマンスに極めて重要な睡眠と役割と題するローズカインド先生の特別講演はまさに見事でした。重大な事故を多数検証してきたご経験から、量と質の保たれた睡眠があらゆる場面で不可欠あることを明快に示しました。当日のスライド資料は追って、ISMSJのウェブサイトに掲載される予定ですので、お楽しみに。
さて、ポスター・セッションです。興味深いデータや症例が多数発表されているので、2時間半もあっという間でした。座長の先生方は時間進行にいつも苦労します。でも、そのくらいの活気が必要と思います。
二日目の締めはいよいよ懇親会です。出席者が予定より増え、熱気むんむんです。それを祝うかのように、大きな花火が迎えてくれます。
ただ、あまりに盛り上がりすぎて、ISMSJ懇親会恒例の目覚めぱっちり写真とぐっすり写真を撮るときに、ローズカインド先生が部屋に戻ってしまったことをすっかり忘れていました。これは大反省です。。。
三日目のサテライトシンポジウムの後、ごく少数の限られたメンバーと一緒に、ローズカインド先生を対話する時間をとることができました。9時間眠らないと順調ではない人は社会生活との折り合いをどうつければよいか、日本人の医療職はなぜ睡眠を軽視するか、職業ドライバーで睡眠の充分さを確かめる装置はできそうかなど,睡眠の研究と実践にまたがる議論をじっくり行いました。
ローズカインド先生からはたくさんの良いメッセージをいただきましたが、強いてあげるなら、二つ紹介できます。一つは、「睡眠にプライオリティを与えなさい Priority should be sleep!」です。日常ではやらなければならないことがいくつもありますが、その中から睡眠の優先順位を上げることがなにより大切であると強調しました。
もう一つのメッセージは「証明してみなさいProve it!」です。例えば、睡眠時間を充分にとることの大切さを説明しても、「睡眠は時間よりも深さ」とか、「個人差が大きいから」とか、「私は5時間睡眠で大丈夫」などとはぐらかされることがよくあります。でも、それぞれの見解が本当に正しいのか、第三者からみてもそう言えるのかをデータでもって証明することが議論の根本になることをはっきり指摘しました。この言葉は私の心を強くしました。
以上、第6回学術集会を要約してみました。もちろん文面では伝えきれないものが多数残っています。第6回と言えば、人間にたとえると小学校一年生です。どのような職種や立場であれ、睡眠にチームとしてあたり、睡眠医学のインフラを強くし、世界標準を見据えながらわが国なりの睡眠医学を確立するという使命を果たすよう、また今日から一人一人精進したいと思います。さらに、今回の総会ではISMSJが任意団体から一般社団法人に移行することも決まりましたので、社会的な責任を自覚しながら、組織としても成長していかねばなりません。
来年の第7回学術集会は神戸を離れて、大阪で開かれます。「睡眠への愛」を感じるために、ぜひ会場にいらしていただけましたら幸いです。
(第6回ISMSJ学術集会 組織委員長 独立行政法人 労働安全衛生総合研究所 高橋正也 記)