「第9回ISMSJ学術集会」レポート
2017 年 11 月 25 日
つなごう 『私たち』の睡眠医学 ~第9回ISMSJ学術集会を終えて~
社会医療法人富永病院 神経内科 杉山華子 (H14 金沢医科大学卒)
2017年9月末、第9回日本臨牀睡眠医学会(ISMSJ)学術集会が、金沢医科大学・金沢医科大学病院で開催されました。
今回の学術集会は、同大学の医学教育学・金沢医科大学病院睡眠センターの堀有行大会長を中心とした組織委員会の諸先生方が、
教育学的観点で独創的な企画をしていただき、いままでとはまた違った学術集会になりました。
睡眠医学の継承も他専門分野と同様に、研修・専門医制度が変化し続けている現在、その方法をどうするべきか難しい問題を抱えています。
昨今、卒後研修を終えたばかりの医師がキャリアプランをたてるにあたって制約や条件が多く、早期にサブスペシャリティーの道へ進むことは、我々が経てきた時代よりも更に難しい選択のようです。
かつて大会長の一言で、初期研修終了後より睡眠の世界へ飛び込むという大胆な選択をした私は、当時としてもやや珍しい部類に入ります。
人とは違う経験をし、立花理事長のたとえを借りると『ジェンガ』のように知識と経験を積み上げてきた私の経歴は、今となっては[広い視点と閃き]に繋がる財産になりました。
ここ数年恒例となった開会直後の河合真先生の今回の講演は、睡眠をする人こそ睡眠を取り巻く環境を正しく認識していないといけないと常々思う私に、医療現場の現状を教えてくださいました。
ランチョンセミナーでは、普段講演されることの少ないテーマである『不眠』について、立花直子理事長から貴重な経験を交えた現場のお話を聴かせていただきました。
発達・成長・性徴と生活習慣についての日野林先生のお話は、神経内科医である私にはとても新鮮で、豊富な御経験やお仕事を聴くことで見識を深めることができました。
また、今大会でとりわけ斬新だったのは大会長企画のワークショップでした。
教育に関する諸々のことが未だ確立していない睡眠医学を象徴する内容で、私の参加したグループでは大先輩の模擬医療面接を見学するという貴重な経験ができました。
臨床家としての感覚から出た指摘にハッとさせられ、そういった点では学生時代の医療面接よりもリアルで意義深く、医師免許を取り研修を終えた後でこそ必要なのかもしれないと考えさせられました。
ポスターセッションでは,各々の専門分野からみた『睡眠医学』がテーマの多様性に反映されており、今回も興味深いポスターを多く見つけることができました。
また、頭痛診療に力を入れている当院での症例報告に興味をもって声をかけていただけたことも、院内では一人で睡眠診療をしている私にとって、非常に勇気づけられる出来事でした。
特別講演はベルリンよりお越しいただいたKunz先生の講演で、20年前にはなしえなかったメラトニンの様々な作用がagingや石灰化の影響などを通し解明されつつあるという事実にとても興奮しました。
現在、頭痛の世界でもメラトニンは注目の的であり、睡眠覚醒リズムと痛みの神経生理学的メカニズムの共通点を探る上でも、貴重な講演を拝聴できました。
今回、個人的に大変楽しみにしていた企画の一つにOSHNet共催の廣瀬源二郎先生のご講演がありました。
私が学生時代、無謀にも神経内科医を志した最大で唯一の理由は、先生の講義でした。
論理的で神秘的な『神経』の世界にたちまち引き込まれ、今でもその熱を持ち続けていられるのは、先生の講義を受けたからです。
座長を拝名いたしましたが、流れるような先生の講演の巧みさに、感激のあまりすっかり一学生に戻ってしまい、十分な役目を全うできなかったことも今学会の反省点でした。
母校での会期中、敷地内で懐かしい風景に遭遇して、入学の日に≪(名医ではなくとも)良医に≫と学長に激励されたことを思い出しました。
良医とは、話をじっくり聞き、丁寧に診察・検査(解析/読影)し、全人的に患者を把握して最もよい医療を選択・実施できる医師のことです。
あの日から私の今が決まっていたような不思議な感覚に陥ったのは、良医が睡眠医療に携わるうえで不可欠な条件でもあり、開催地で私がそれを学んでいたからかもしれません。
『つなごう次世代へ、私たちの睡眠医学を』の『私たち』は、決して特定の人々を指すのではなく、常に外に開かれていて対象をかえていくものだと、私は理解しています。
皆が教えて、皆が学ぶ場。たまたま参加してくださった他分野の専門家や若手医師が、ある場面では先生となることもあるでしょう。
皆で発展させていくために貪欲に学び、臆せず意見を伝え合う。
この地道な積み重ねが、現代において『次世代につなげる』やりかたのひとつなのかもしれないと、充実した3日間を振り返りながら思っております。